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Kiss Meets The Nayuta

2009年 10月 02日
そもそもこの写真に出合ったのが始まり。
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この写真はCanon EOS Kiss DN の撮影サンプルとして発売当時ネットで公開されていたもので、ダウンロードし約1/3のサイズに縮小している。元画像の精緻さは幾分失われるが、それでもこの写真の素晴らしさを伝えるには充分だ。元画像の撮影データは、レンズ EF 17-40mm F4L USM /17mm F4.0 30sec ISO800 WB/Tungsten / Date 2005/0222/18:52 等となっている。

それまで2Mピクセル程のデジカメを使っていたので、この写真は衝撃的だった。天頂に向かって少しずつ深まる濃紺を背景に、恒星や恐らく銀河までが撮影されている。同時に教会の建物を、まるで映画の擬似夜景の様に細かなところまで捉えている。これが月明かりとすれば、月齢も考慮して撮影していることになる。長時間の露光なのに樹木の葉は殆どゆらぎがない様で、良く見れば低い空に少しだけ雲が流れている。この不思議に落ち着いた美しい夜の空気、なんという撮影だろうと感心した。この写真は天文写真であり、風景写真であり、そしてポエムでもあるのだ。めったにないことだが、こんな写真を自分も撮りたいと思った。

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画素数に対する欲求はなかったが、レンズ交換が出来、色々な特殊撮影が可能になる一眼デジカメは、いずれは手にしたい到達点と考えていた。当時のコンデジは望遠側も弱いし広角側は更に限界があり、物足りなさにじれていたので、この写真は決心させるに充分だった。まもなくしてKiss DN を買い込んで来た。そして、ひとしきり手持ちの昔のレンズを付けて試してはしていたが、この写真の撮影に準拠した広角レンズが必要と確認して、SIGMA 15mm F2.8 EX を入手した。レンズの種類としては対角線魚眼というものだ。35mmフイルム対角に180度が結像するが、その中央部しか使わないAPS-Cでは24mm相当の単なる広角となる。真似事だが、自分でやってみたいのだからしょうがない。

天体写真には幼い頃に少しながら興味があったので、普通の素のレンズで星を写せるのは知っていた。これに地上の建物を写し入むが、露出がどうなるかはやってみないとわからない。街明かりが邪魔をしない星の良く見える所でないとダメだと、テストなどする前に決めていた。 ある友人に「星の降る街」を撮りたいのだと話すと、その計画に快く乗ってくれた。撮影場所は兵庫県佐用郡にある西はりま天文台と決まった。天文台なら星に困らないだろうという次元の発想だった。 反射鏡を磨いた事があるというワンランク上の天文少年だったその友人も、望遠鏡を作っている内にカメラを弄り始めた私も、実は有名なこの天文台に一度は行ってみたかったのである。

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2005年5月15日(日曜)
高速を乗り継いでこの天文施設に着いた時はまだまだ明るく、他に来訪者らしい人影はみかけない。後の体験会頃には急に人が増えたのだが。
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天文台の周囲には駐車場やレストハウスがあり食事も出来る。花や樹木が植えられた低い丘の頂上に天文台があった。
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奇抜なメインドームは気流を考えた構造らしい。丘の斜面には小型観測施設や装置が並ぶ。
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丘の裾には子供が潜り込める様なオブジェが点在していて、少し浮世離れした演出だ。
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その片隅に無造作に置かれた鉄の巨大な円盤。直径がこの天文台の主鏡「なゆた」の2mに符合するので、鏡の搬送用のカーゴか、あるいは築造時のバラストだったのかもしれない。

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天文台は来訪者に大変オープンな施設で、「なゆた」をはじめ色々な装置を見学させてくれる。それらを見てまわっている内に、いつしか日が暮れて来訪者が集まり出し、観察体験会が始まった。
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ドームが開かれ観察塔の灯が落とされ、だれもがわくわくする。側方の窓は、ドーム周囲の気流に合わせて調節されるらしい。
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幾つもの天体を順にフォーカスしながら、「なゆた」は来訪者それぞれにその生の像を見せてくれた。若い研究員の適切な説明と進行で、参加者達は楽しい時間を過ごす。きっと皆んな、少し興奮した思いで帰宅の途についたに違いない。

ただ、我々は別だった。他の来訪者達に混ざって公園を出てから、少し離れた空き地に車を止めてしばらく時間の経つのを待ったのである。友人はキャンプにも長けていた。少し肌寒い夜気の中、テスト撮影をしている間にキャンプ作法でコーヒーを沸かしてくれた。こういうのは忘れられない。バルブ撮影の秒数を確認した頃には充分時間が経っていたので、いよいよ夜の公園へと向かった。

車で公園入口まで戻り、閉じられた門からは機材を持って徒歩で侵入した。実際はとがめられる事はなさそうにも思えたが、やはり侵入には違い無い。昼間に天文台の南裾の納屋風の建物を撮影ポイントに決めていた。三角の屋根が良さそうだったからで、迷わずに直行した。天文台の施設には一部灯りが点っていて人の気配があったが、三脚を据えて撮影している内に、だんだん気にならなくなった。

暗い空を相手にフォーカスが取りづらく、マグニファイアーは着けたままだった。絞りは開放より1~2ステッブだけ絞る。カメラの液晶では結果の判断が困難なので、シーンごとに撮影時間を増減した撮影を行った。次第に要領がつかめて来た頃には、月が西に沈んだ。その後も撮り続け、最後の方では欲が出て、建物をライトで照らす事を試した。友人が携帯カンデラを持っていたので、高い所から数秒だけ照らし(照射時間は手さぐり)その後は追い露光で星を撮影した。 2人が静まりかえった公園を後にしたのは深夜を過ぎてからだった。

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この夜の撮影で一番気に入ったショット。クリックで拡大表示されます。屋根の形や、月明かりに淡く照らされた道が良い。左手の林の向こうが明るいのは街の灯らしい。空の色を出すために、カラーバランス、ガンマ、コントラストは大いに調整している。縞ノイズが出る寸前まで明るくしているが、もう少し露光すれば良かったのかもしれない。
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SIGMA 15mm F2.8 EX / 15mm F4.0 30sec ISO1600 WB/Tungsten

次のは、月明かりが無くなり、カンデラ照明を入れて撮影したもの。蛍光管で建物がピンク色に発色したので、照明効果の少ないショットしか使えなかった。色温度の高いものだったら、もっと建物のディテールを出せたと思う。やはり空にノイズが出る寸前まで明るく画像調整している。
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SIGMA 15mm F2.8 EX / 15mm F4.0 30sec ISO800 WB/Tungsten

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この撮影をしたのは2005年5月だ。その後も「星の降る街」を求めて撮影に出かけたりしていたが、暫くして熱はしだいに冷め、教会の写真は頭の片隅にしまいこんでいた。しかし、ほぼ2年が経った2007年に、偶然にある方のブログの旅行写真にこの建物を見つけた。場所はニュージーランド、テカポ湖だった。無断で申しわけないが、説明の為に写真を利用させて戴いた。
Kiss Meets The Nayuta_b0174191_1419662.jpg
どうやら湖畔の絶景のスポットで、教会は「善き羊飼いの教会」と呼ばれているそうだ。Kiss DN のサンプルは湖岸側、おそらく南側から撮影されている。教会の名で検索すると大変有名だと判るだろう。1935年に開拓民によって建てられた石造りの小さな教会で、聖書に出てくる『善き羊飼い』にちなみ名が付けられたそうだ。 こんな素敵な所があるのだね。

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撮影の手助けをしてくれた友人、教会の旅行写真を公開された方、ありがとう。


by Ataron | 2009-10-02 14:40 | 単なる写真 | Trackback | Comments(0)
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